先ほどこの論文を読みました。
あくまで私の意見ですが,この論文は栽培イネが広がる前の植物性食料を復元した点で良い成果といえます。
著者の1人であるバートン先生は残存デンプン粒分析の専門家です(そして,私の師匠P. J. マシウス先生の仲間でもあります)。
デンプン粒と植物珪酸体の分析データにもとづくと,BC3,350~2,470年の間,人びとがサゴヤシ,バナナ,淡水性の地下茎や根茎,シダの根茎,ドングリ類,ジュズダマを野生イネとともに利用していたということです。
残存デンプン粒分析に関して。
[方法]
この論文では,すべてのサンプリング方法や試料の扱い方が「土壌中のデンプン粒」の混入問題をどのように避けるのかという方法とともに示されています。
私の研究ではまだ土壌分析を行っておりませんが,自然石の付着物を石器の残留物と比べる作業をしています。近いうちに,この種の土壌分析を行う必要があると考えています。
[植物同定]
論文では,デンプン粒の植物同定を実施していますが,方法的には何ら問題は見られません。
Figure 3では石器の残留物から抽出されたデンプン粒が示されています。「m」をのぞいて,これらと同じ形態のデンプン粒は私の研究事例では見たことがありませんが,いくつかのデンプン粒は私の作製した現生デンプン粒標本のハス,クワイ,ヒシのデンプン粒の形態と非常に類似しています。
またFigure 5では,デンプン粒のいくつかがドングリ類(Quercus sp.)のデンプン粒であると同定されています。私の印象も同様です。日本の事例では,旧石器時代や縄文時代の石器から検出されたデンプン粒と同じ形態をしています。
最も重要な事項としては,この論文では「タロイモのデンプン粒」の問題が提示されていることです。実際のところ,タロイモのデンプン粒は検出されておらず,著者たちはこの結果について2つの理由を示しています。
「第1の理由はタロイモのデンプン粒が顕微鏡下では見つけることが非常に難しいほど非常に小さく,また珪酸体は生成されないことである。2つ目の理由はその時期にタロイモが利用されていなかったことである」
私の研究事例においても,サトイモのデンプン粒を検出したことがまだありません。これについて,上記の2つの理由が考えられるのかもしれません。
[コメントの結論]
総合的にみて,この論文はデンプン粒や珪酸体の分析を用いて,揚子江流域から南へ栽培イネが広がる以前の植物性食料を解明しようとした挑戦的な研究であるといえます。また,最近の残存デンプン粒分析の論文のいくつかとは異なり,方法や解釈の全過程を示しています。
分析方法やデンプン粒への解釈のしかたは私の研究とまったく同じであり,そのため,この研究成果は日本の研究事例を再検証する必要性を示していると感じられました。
- Yang, X., H.J. Barton, Z. Wan, Q. Li, Z. Ma, M. Li, D. Zhang, J. Wei. 2013. Sago-Type Palms Were an Important Plant Food Prior to Rice in Southern Subtropical China. PLoS ONE 8 (5): e63148. doi:10.1371/journal.pone.0063148
あくまで私の意見ですが,この論文は栽培イネが広がる前の植物性食料を復元した点で良い成果といえます。
著者の1人であるバートン先生は残存デンプン粒分析の専門家です(そして,私の師匠P. J. マシウス先生の仲間でもあります)。
デンプン粒と植物珪酸体の分析データにもとづくと,BC3,350~2,470年の間,人びとがサゴヤシ,バナナ,淡水性の地下茎や根茎,シダの根茎,ドングリ類,ジュズダマを野生イネとともに利用していたということです。
残存デンプン粒分析に関して。
[方法]
この論文では,すべてのサンプリング方法や試料の扱い方が「土壌中のデンプン粒」の混入問題をどのように避けるのかという方法とともに示されています。
私の研究ではまだ土壌分析を行っておりませんが,自然石の付着物を石器の残留物と比べる作業をしています。近いうちに,この種の土壌分析を行う必要があると考えています。
[植物同定]
論文では,デンプン粒の植物同定を実施していますが,方法的には何ら問題は見られません。
Figure 3では石器の残留物から抽出されたデンプン粒が示されています。「m」をのぞいて,これらと同じ形態のデンプン粒は私の研究事例では見たことがありませんが,いくつかのデンプン粒は私の作製した現生デンプン粒標本のハス,クワイ,ヒシのデンプン粒の形態と非常に類似しています。
またFigure 5では,デンプン粒のいくつかがドングリ類(Quercus sp.)のデンプン粒であると同定されています。私の印象も同様です。日本の事例では,旧石器時代や縄文時代の石器から検出されたデンプン粒と同じ形態をしています。
最も重要な事項としては,この論文では「タロイモのデンプン粒」の問題が提示されていることです。実際のところ,タロイモのデンプン粒は検出されておらず,著者たちはこの結果について2つの理由を示しています。
「第1の理由はタロイモのデンプン粒が顕微鏡下では見つけることが非常に難しいほど非常に小さく,また珪酸体は生成されないことである。2つ目の理由はその時期にタロイモが利用されていなかったことである」
私の研究事例においても,サトイモのデンプン粒を検出したことがまだありません。これについて,上記の2つの理由が考えられるのかもしれません。
[コメントの結論]
総合的にみて,この論文はデンプン粒や珪酸体の分析を用いて,揚子江流域から南へ栽培イネが広がる以前の植物性食料を解明しようとした挑戦的な研究であるといえます。また,最近の残存デンプン粒分析の論文のいくつかとは異なり,方法や解釈の全過程を示しています。
分析方法やデンプン粒への解釈のしかたは私の研究とまったく同じであり,そのため,この研究成果は日本の研究事例を再検証する必要性を示していると感じられました。
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